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イカとタコとのせめぎ合い−イカタコ合戦について語る−

 1997年度 鳴和中学校 3年7組 学級通信「esperanza」118号(1997.10.20発行)

 みなさん初めまして,私は Prince Kochan's Producution社長室秘書課の沢ルナです。
今日は,「イカとタコのせめぎ合い」ということで,情報調査部の織田真理とうちの社長との真面目な会話を紹介します。
 ちょいちょい話に口を差しはさむのが,私沢ルナよ。
 場所は,行きつけのパブ「ソンナミラーズ」です。
 じゃ,始まり始まり。

: それじゃ今日は,3年7組のみなさんに,「イカとタコのせめぎ合い」について教えてあげるために,真理ちゃんと社長との会話のお手伝いをしたいと思います。
織田:とか言ってルナちゃん,今日もソンナミラーズでおいしい物食べようって魂胆ね。
: あら,失礼しちゃうわ。今日もちゃんと社長のお供よ。
社長:それはいいから,そのイカとかタコとかって何なんだ?
織田:社長,遅れてるわね。だから,中学生におじんなんて言われるのよ。
社長:イカといったら,イカさし,いいねー,うまいねー。
 イカそうめんもいいし,リングフライも好きなんだよ。
 あの,浜辺で食べるイカ焼きと生ビール,こりゃたまらんわ。
: やっぱりおじん!
織田:イカって,その烏賊じゃないのよ。
 イカって異化。
: ちなみに「広辞苑」によれば,異化には以下の意味があるのよ。
織田:ルナちゃん,それってしゃれ?
: ほっといて!
 異化の説明をするとね,
(美術用語)ロシアフォルマリズムの芸術説の一つ。(以下略)
(心理学用語)(難しいので全部略)
(生物用語)物質代謝において(中略)(後略)
社長:要するになんにも分からないじゃないか。
: はい。私にも分かりません。
織田:私が言いたいのはね,これ造語なんだけど要するに「他人と異なったようにすること」これを異化とよんでるの。
 つまり,人と違ったことをすることよ。
社長:それがイカ。
織田:そもそも流行というのはイカね。これまでと違ったことをするんだから。
 服の流行にしてもそうでしょ。これまでみんなが着ていたものと違ったものを着る。そこに流行があるのよ。
社長:人と同じじゃ目立たない,違わなきゃ目立たないってことか。
織田:そうなんです。
 ところが,ところが,流行は自分でつくるものじゃない。
 自分がデザイナーならいざ知らず,結局誰かのまねをしてある程度同じことをしなけりゃ流行とは言わないのよ。
: つまり,1人だけイカじゃ流行じゃないのね。
織田:そうよ。みんながあらいいわね,とまねをしてくれなきゃ流行じゃないのよ。
 ミニスカートが流行です,というためには,何人もがミニスカートをはかなきゃ流行とは言わないのよ。
社長:なるほどね。
織田:で,これがタコよ。
社長:タコってどんな字を書くんだい?
織田:「他己」よ。つまり,他人と己(おのれ)が同じってこと。
 みんながある程度同じじゃなきゃ流行にはならないのよ。
 そしてまた,みんなが同じじゃ,それは当たり前で流行とは言えないのよ。
社長:つまり1人だけイカではただの変人!全員タコじゃつまりこれ常識で流行じゃない。
織田:そうなのよ,イカとタコとのバランスで流行ができあがるのよ。
 これがイカとタコとのせめぎ合い現象よ。
: ところで,食べるものなくなってきたから注文しましょ。社長なにがいい?
社長:そりゃもちろんイカとタコ。
: あ,ちょっとすみません。イカとタコ3人前お願いします。
ERIKA:はい。
社長:いいねえ,このソンナミラーズの制服も。ミニスカートに。白いエプロン。
 いいねえ。きっと小中先生も「いいねえ。」って言うと思うな。
織田:制服というのもイカの代表ね。他のところとは全く違う,その集団独自のものだから。
社長:でもタコの代表のようなものでもあるな。その集団に所属したら,その制服みんな着るんだから。
織田:そうよ,だから女子高生たちは,いかにしてイカになるかで苦労しているのよ。
 ミニスカートにしてみたり,ルーズソックスはいてみたり,茶髪にしてみたり,大変ね。
社長:そして,ある程度みんながタコ現象で茶髪にすると,茶髪流行と騒がれるわけだ。
ERIKA:お待たせいたしました。
エリカちゃん 社長:お,きたきた。ところで,このイカとタコどうやって食べるんだい?
ERIKA:あなたのお好きなように!
社長:エヘ,エヘエヘ。
: 社長,よだれ流さないでよ。好きなようにしていいのはイカとタコよ。
社長:あっ,そ。
織田:そういえばこの間新聞に女子高生の茶髪狩りが出てたわね。
社長:何だそりゃ?
織田:茶髪がとっても流行してるでしょ。
 つまり,みんなタコなのよ。
 そうするともはや流行じゃない。当たり前なんだから。
 そこでこの茶髪をいかにして流行とするか,というと,つまり自分がイカになるためには茶髪の人間を減らすしかないのよ。
社長:でどうしたんだい?
織田:そこで,茶髪の不良少女グループが茶髪の女子高生をかげに引っぱって「あんた,茶髪やめな。」とおどしたのよ。
社長:笑っちゃうね。自分が茶髪にしていて,茶髪の女の子に「茶髪やめな」とおどすなんて。
 「あんたが茶髪だから,あたいの茶髪が目立たないんだよ。」ってわけか。
織田:これぞ,イカとタコのせめぎ合いを象徴する事件よ。
 みんながタコじゃ流行じゃない,だけど自分だけイカじゃこれも流行じゃない。
 ある程度目立って,しかも全員じゃない,そのためにはバランスが必要なのよ。
社長:でも人間なんて目立ちたがり屋が多いからな。イカになりたがる。
織田:だけど,人間も無い物ねだりよね。
 黒い髪の日本人は金髪にあこがれたり,でも外国では日本人のような黒髪が素敵ねと言ってみたり。
: そこで,中学校の話が出てくるのよね。
社長:そういえば,中学校にはイカが多いなあ。
織田:そりゃそうよ。中学校なんて,制服だし,みんな同じ。
 そんな中での目立ちたがり屋はイカになるのよ。
: 同じ制服,同じカバン,同じシューズ。個性の時代に没個性なんてよく言われるけどね。
社長:しかし,このソンナミラーズで,ミニスカートの制服がなくなったら,わしゃ来んぞ。
 制服はいいぞ!
織田:社長の趣味聞いてるんじゃないのよ。
 でも家でまで同じ服を強要してるわけじゃなし,個性ってそんなことくらいでつぶされるとは思わないわ。
 文章書いたり,絵を描いたりして,果たしてどれだけ個性的な人がいることやら?
 いや,そんなところでこそ個性を伸ばしてもらいたいわ。
: そうよね。
 考え方まで強制してるわけじゃないし,しかも,学校じゃやることたくさんありすぎて,ほかに頭使ってほしいこと山ほどあるしね。
織田:イカタコの話からちょっとずれちゃったわよ。
: そうだったわ,中学校の中にもイカさんがいるわねえ,って話だったわ。
 社長はいつも観察してるでしょ。
社長:うーん,いるいる,イカ野郎にイカ嬢ちゃんが。
 なにしろ学校ってところ,さっきの話じゃないが同じ制服,同じカバン,同じシューズ,如何にイカになろうかと構えてるからな。
 一発イラスト描いてやろう。
イカ少年 織田:いまいち下手ね。
社長:気にするな。これでも一生懸命描いたんだから。
 まずはイカ野郎だ。
織田:シャツをだらりと出してる子多いわね。
社長:そうなんだ。これ,冬服でもあるんだよ。
冬服の詰め襟の下からだらりとカッターシャツやトレーナー,Tシャツなんかを出してる。
織田:やっぱりこれって流行?
社長:そうさ,若者のはやりさ。だらしなく見せるというイカ野郎の魂胆さ。
 修学旅行での奈良なんかおもしろかったよ。
 今時金沢では見かけない短ラン(短い詰め襟)にズボンを目一杯下げて,トランクスなんかわざと見せてるやつ。
 そいつがまた,グループ行動してて,みんなに遅れまいと走るとズボン下げてるもんだから当然走れない。
 で,転びそうになりながら走っていく。
: 結局そういうのって自己満足の世界ね。
社長:そうなんだよ。イカ野郎はイカであることで自己表現し,自分の存在を確かめてる。
 もしも無人島でもこんなかっこうして,一生懸命今日食べる魚釣ってたら笑えるよ。
 無人島じゃ生きるためにかっこうなんてかまっていられないよ。
 他人の目があるからこそイカになるイカ野郎。
 こっけいといえばこっけいだけど,それしか自分を認めてあたるものがないとすれば哀しいね。
イカ少年その2 織田:そのほか鳴和中でのイカ野郎はここに描いてあるけど,第2ボタンをはずすの?
社長:このいいわけが決まってまた「暑い!」
 だけど,第1ボタンについで第2ボタンはずしたって,ちっとも差はないよ。
 第1ボタンきちんとしてネクタイしてるのと,第一ボタンしないでネクタイしてないとの違いはあるけどね。
: これって夏休みの一研究のテーマにいいんじゃない。
 「第一ボタンと第二ボタンをはずした場合における体温の変化について」なんて,きっと入賞するわよ。
織田:でも第二ボタンまではずすと見苦しいものね。
 見たくもない胸まで見せないで!と言いたいわ。
: 第二ボタンはずすのってカッコつけてやってるの?
社長:そりゃそうさ。さっきも言ったように,実用的価値はないんだからな。
 そういえば,イカ野郎もイカ嬢ちゃんも結局やってることは実用的な価値はないことばかりだな。
織田:流行ってそんな面があるわね。資本主義社会の特徴みたいなものね。
社長:そう,売るためには,「これが今年の流行ですよ。」と言わないと,売れない。
 もしもみんながとにかく着られなくなるまで,ぼろぼろになるまで同じ服を着ていたら,商売あがったりだからな。
 流行に無頓着な人ばかりだと,商売にならない。
織田:でも本当の個性って何なのかしらね。
: 自分の好きな色,自分の好きな形,自分に似合う柄の服を選ぶのが個性だと思うわ。
だから,中学校の中でのイカ野郎,イカ嬢ちゃんって自分に似合うとかどうとかじゃなくて,とにかく人と違うことに価値をおくわけでしょ。
 それって個性じゃないわよ。
社長:それこそイカだな。
織田:ところで袖を曲げるなんてあるの?
社長:ま,注意深く見てるといろいろさ。これなんかもまったく実用的なものはない。
 それから,これはかなり前からのはやり。ポケットからはみ出す札入れ。
織田:もう10年以上前からのはやり?
社長:そうだな。
: こんなもの,1万円札20枚以上持ち歩くんじゃなきゃ使うな!と言いたいわ。
 うちの社長でさえ,こんな物持ち歩けないわ。
社長:おい,沢君,わしの給料なんとかならんのかね?
: なるわけないでしょ!
 それより前に私たちの給料の方を何とかしてほしいわ。ね,真理ちゃん。
織田:そうよ,そうよ。
社長:いかん,やぶ蛇だった。
 さ,続いて,イカ嬢ちゃんの話にいこう。
 これがわしの描いたイラストだ。小中先生には負けるけどな。
イカお嬢ちゃん 織田:鳴和中のイカ嬢ちゃんの特長は何?
社長:鳴和中に始めてきたときに聞いたのは,茶髪と眉毛そりだな。
織田:さっきの「茶髪狩り」の女子高生の話じゃないけど,茶髪は珍しくないよね。
: でもそれは高校生よ。中学生で茶髪にしていて高校入ったなんて話は聞かないわ。
社長:ま,親も気がつかないくらい徐々に徐々に茶色くなっていくというやつだな。
 その手のシャンプーとか,毛染めでさりげなく色をつけていくという手合いだ。
織田:そんなのわかるの?
社長:その判定が難しい。
 もともと茶色っぽい子もいるからな。
 だから,一番はその子のことをよく知っている親が頼みだ。
 髪の毛一本抜いて分析するわけにはいかないからな。
 そうすると人権侵害とやらで新聞には「A教諭(41)女子中学生の髪の毛を抜いて顕微鏡で調べる」などと出るからな。
織田:中学校の先生も大変ね。
: 白鳥の前でたたずみたくなるものわかるわ。
社長:結局自分の自覚によるしかない。
 そんなことに時間かける暇があったら,もっと自分を磨け!と言いたいが,それがまた生き甲斐となると,大変だ。
織田:でも眉毛はわかるわね。そってあると。
: これも流行よね。平安朝なら,みんな眉毛そってたけどね。
 そして,戦後のモデルはみんな眉毛が細かった。
織田:細かったと言うよりも,細くしてたと言うべきね。
: で,最近の流行は自然美ね。確か何年か前,まったく自然の太い眉の誰だったかのお孫さんのモデルが世間の注目を集めたことがあったわ。
社長:しかし,男子でもそってるのがいるんだよ。
この間笑っちゃったよ。自分でそったらしくて,正面から見ると左右が違うんだよ。
織田:ネクタイもこんな風に下の方で縛るのがはやり?
社長:いるんだよこれが。わしはこれを名付けて「ブランコネクタイ」と呼んでいる。
 公園のブランコのように,下の方でぶらぶらしているのだ。
織田:あまりかっこよくないわね。
: かっこいいとか悪いとかは無関係なのよ,これも。
 要するにイカ現象なんだから。
社長:セーラー服のネクタイは,胸元で締めて,胸元きりりと愛らしく見せるためのものだ。
 愛らしくなくてはいかん。
織田:しかし,その女は愛らしいという発想は男女差別じゃないの。
社長:いいのだ。女はあくまで愛らしく。そしてちょっと生意気ぐらいがいい。
織田:ネクタイの縛り方がどうであれ,生意気な者は生意気だけどね。
: ルーズソックスは中学校ではどうなの。
社長:ひそかにはいている者はいるな。
 しかし,わしの友人で,長くウィーンにいた人にこの間会ったが,こう言っていたぞ。
 久しぶりに日本の空港に降り立って,女性を見たとき,びっくりした。日本の女性はいつからこうもだらしなくなったのかと。
何だ,このだぶだぶで,きちんと上げようとしない靴下は!と思ったそうだ。
 しかし,あとで聞くと,これが今の流行だそうで,ちょっと日本にいない間に日本の流行も変わるもんだ,と感心していた。
織田:ルーズソックスのはき方もいろいろなパターンがあるわね。
社長:しかし,これまたぜんぜん実用的じゃない。
イカ現象の最たるものだ。
 いろいろなルーズソックスのはき方があるということ自体が,イカ現象だな。
織田:もう社長もイカとかタコの言葉の使い方よくわかってきたようね。
社長:あたりまえじゃ。わし,頭いいもん。
織田:あんまり頭良さそうに見えないけど。
社長:外見で判断してはいかん。
: そうよね。ついつい外見で判断しちゃうけど,しかし中学生で,見るからにイカ野郎,イカ嬢ちゃんだと,やはりアホっ!て思ってしまうわ。
やっぱりそれしか自己を確認する方法ってないのかしらね。
社長:そうだな。そこが問題だ。
 彼らはそれがかっこいいと思っている。
 いや,かっこいいとは思っていないかもしれないが,少なくとも,俺はイカ野郎だ,イカ嬢ちゃんだと自覚はしてやっている。確信犯だ。
 他人と違うことに快感を覚えている。
 ときには先生に反抗することで,自分はいっぱしの大人だ,1人の人間だと思っている。
織田:文句があるなら,学校やめて自分で働きなさいと言いたいわね。
社長:しかし,義務教育の教員がそうとも言えないところがつらい。
 義務教育じゃなきゃ言ってもいいってことじゃないが。
: でも彼らも追いつめられてるのかもしれないわね。
 ボタンはずしたり,シャツを出したり,髪の毛染めたりすることでしか自己表現ができないんだから。
 ほかに個性を発揮する場はたくさんあるのに,それをしようともしないし,できない。
社長:そうさ。そして,それを指摘されると,「かんけーねー」「うるせーな」「むっかつく」の三段攻めだしな。
 どうしてそんなに外見にばかりこだわるのかと聞きたいが,どうもそれが生き甲斐らしい。
: ボタンはずしたり,シャツ出したり,髪の毛染めたりが生き甲斐なの?
社長:変な世の中さ。豊かな国の貧しい心だよ。
文化を創りあげたり,友人と協力してものを造ったり,奉仕活動をしたりということがどんどんなくなってきている。
 あるのは希薄な人間関係と,幼稚園児のような反応さ。
 正しいと思っていても口に出せない,出さない。
 注意されたらかえって逆恨みする。
織田:そんなことあるの?
社長:そうさ。注意した子を逆にこれ見よがしにばかにする。いじめる。ものを投げつける。
 正義が通らない世の中さ。
: なんだかイカタコの話からずれてきたわよ。
社長:ま,イカ野郎,イカ嬢ちゃんにはこの手の心のゆがんだ者が多いという話さ。
織田:その心のゆがみが,ボタンはずし,シャツ出し,茶髪に現れてるってこと?
社長:そうだね。どこか心に引っかかる者があるやつがそんなことやってる。
 そりゃ見ればわかるさ。
 家庭的に寂しい者,愛情不足ってやつだ。
 両親共働きで,家に帰ったときに「お帰りなさい」という言葉を聞いたことがない者。
 放任,あるいは過保護な親に育てられた者。
 親子の会話のない者。
織田:なんだか家庭的な問題ばかりね。
社長:教員やってて,これまで何百人という父親,母親を見てきたからね。
 教師の手に負えないときには最後は親さ。
 でもその親がどうしようもないときには,教師だってどうしようもない。
 教師がどうにかできるときには,すでに親がどうにかできる。
織田:なんだか話がどんどん暗い方へいったわよ。
 イカとタコの話のはずだったのに。
社長:イカ野郎とイカ嬢ちゃんから世界が見えるってことさ。

 とまあ,この夜も「ソンナミラーズ」での話は尽きなかったの。
 もちろん次の日社長は二日酔いよ。
 それとも悪酔いかしら……

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